自然石と間伐材を使ってつくる間伐材水制により、水の流れを多様にし、様々な種類の生き物の生息場を創出!
経緯・目的
上西郷川では2007年度より、市民- 大学- 行政で協力した多自然川づくりが進められており、これまで(2014年9月現在)に行われたワークショップやイベントは約50回に上っています。ワークショップでは、川の維持管理や自然再生手法についても議論されてきました。また合わせて魚類を対象としたモニタリング調査が行われており、その結果を見ながら小さな自然再生の工夫を導入するという考え方で改修事業を進めています。本稿で紹介する間伐材水制はその一環として取り組まれているものです。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
本工法は、水の流れを多様にすることにより、水深や流速河床材料なども多様にし、様々な種類の生きものの生息場となることを期待して導入しています。施工は人力で可能です。材料には、近隣流域で余っている間伐材や、周辺工事で発生した石材を活用しており、流域管理やリサイクルの点においても工夫しています。なお、本工法の強度(耐久性)は、導入する河川の状況(掃流力、河床の状況など)によって異なるので、導入には十分に検討を必要とします。さらに、流失の危険性が少しでもある場合は,丸太と地面とを鎖でつなぐ等の間伐材水制が流失しないための対策が必要です。
施工時の作業は大きく分けて、大学生・大人の作業と小学生の作業に分かれます(図1)。基本的には危険を伴うものや強い力を必要とする作業を大学生・大人が行い、それほど危険ではなく、たくさんの人数が必要な作業を小学生が行います。作業の流れを図2に示します。はじめに、施工場所を決めます。これは砂州の付き方など現場の状況を見て決定します。決定した場所に丸太を設置したら、次に丸太にドリルを使って鉄筋を挿し込む穴を空けます。
隣接するドリルの穴は、鉄筋を打ち込む向きを意識して、1m 程度の間隔を空けて、90度程向きを変えてあけておきます。一本の丸太につき空ける穴は3~4か所です。この際、穴を貫通させずに、丸太の直径の1/3 くらいは残しておくことがコツです。続いて、ハンマーを用いて鉄筋を丸太に打ち付け、地盤面に丸太を固定します。この際、丸太の穴を貫通させていない部分を、ハンマーを使って鉄筋を打ち込んで貫通させます。この作業は結構しんどいですが、こうすることでしっかりと地面に丸太を固定することができます。その後、丸太の上流側に石を、丸太を抑えるように並べて完成です。この際、石の座りがいいように、石は上流側に広い面を向け外圧を受けやすくし、なるべく左右の石はかみ合わせて並べるのがコツです。あとは、現場の状況に合わせて、稚魚などの生息場になりそうな氾濫原水路などを、間伐材水制の周りに掘ってあげるとより効果的です。
なお本工法は、水の流れを複雑にすることと、水の中の隙間を作ってあげることが大きな目的なので、丸太の細かい向きや位置、石の大きさや並べ方などはそこまで気にしなくてもいいです。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
本工法および上西郷川の川づくりの取り組みの主体は、上西郷川日本一の郷川をめざす会(地元市民・九州大学・福津市の連携組織)であり、市民- 大学- 行政で協力しながら事業を進めています。なお、材料である間伐材については、隣の流域である大根川から提供を受けています。
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
間伐材水制の効果については、魚類の生息状況および物理環境について九州大学によるモニタリングが行われています。モニタリングによると、間伐材水制導入によって水制近傍のハビタットや物理環境は多様になり、そこに生息する魚種数も増えることが確認されています。例えばハビタットでは、「とろ」とわずかな「よどみ」しかなかった場所に間伐材水制を導入すると、一年後には「平瀬」や、「淵」さらに多くの「よどみ」が形成されたことが確認されています(図3)。その結果、物理環境(ここでは流速・水深)の分布の幅も広がり、多様化したことが図4より確認できます。また、確認された魚種数も有意に増加しています(図5)。詳しくは※参考文献(林ほか2014)を参照してください。
【二次的効果】
現在、間伐材水制の周りは、子どもたちの遊び場としても機能しています。また、施工に関わった子供の多くが自分の施工した水制の様子を見に上西郷川を訪れており、川への愛着が高まるという効果も得られています。その結果、子どもたちの親の世代の上西郷川の認知度も高まり、地域の人の川への関心が高まることにも寄与しています。
※参考文献:林博徳,服部実佳子,新希一,岩瀬広継,島谷幸宏,上西郷川における間伐材を用いた河道内自然再生工法の導入と評価,河川技術論文集,vol.20,pp.121-126,2014
現地への行き方