産卵のために琵琶湖から遡上してくるビワマスに立ちはだかる落差工。市民たちが組み立て式の鋼製魚道を据え付けて効果を確かめ、その後に行政が本格的な魚道を施工し、次々と上流へ魚道設置を進めています。
経緯・目的
- 固有種ビワマスと米原市
琵琶湖のみに生息する固有種ビワマスは、米原市を流れる天野川に産卵のために遡上します。しかし、天野川には魚道が設置されていない落差工が多く、上流へ行くのは困難な状況でした。米原市は、地域を元気にできるシンボル的な生きものとしてビワマスをとらえ、予算を用意して、ビワマスが遡上産卵できる河川生態系の修復をめざして「天野川ビワマス遡上プロジェクト会議」を組織し、魚道設置をコーディネートしてきました。
- 米原市ビワマス倶楽部の結成と魚道設置における活躍
ビワマスや天野川から魅力的なまちづくりを発信するために市民主体のまちづくり会議「米原市ビワマス倶楽部」が結成されました。市の呼びかけに集った市民のみなさんは、自分たちで組み立て式の鋼製魚道を仮設施工しています。それは1シーズンの1落差工だけの応急措置ですが、実際に魚道を使ってビワマスが上流へ遡上する姿が確認されています。この仮設魚道でコンクリート製魚道を設置する場合の問題点の抽出なども行い、役目が終わった仮設魚道は、さらに上流の落差に移設しながら、上流へ向かって次々に魚道整備が進んでいます。同倶楽部が中心になって「米原市ビワマスまちづくりプラン」が作成されました。ビワマス倶楽部の活動はどんどん広がりを見せています。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
- 市民が水辺で汗をかく活動
生きものの調査や観察だけではなく、汗をかいて水辺で協働できる活動として、仮設魚道の設置を活動の目玉として取り入れました。活動は、地元の大学と連携して行い、のぼり旗や駐車場看板などで目立たせ、広報や回覧でPR しました。
- 安くつくるために
重機は使わず、資材運搬や水止めも人力で行いました。魚道は厚さ4.5mm の鉄板製で、表面には防錆塗装をしています。1 枚20〜40kg の10 のパーツに分かれており、現場に運んでから、ボルトナットでパーツ同士を止めて組み立てます。プールの底板はありません。コンクリートの落差工にハンマードリルで穴を開け、オールアンカーを打ち込んで魚道を固定しました。水漏れが多い場合は鉄板の間にスポンジを詰めたり、土のうで塞いだりしました。この仮設工事は完全に水を止めて行う必要は無いので、ブルーシートと現場で作った土のうで、水を止めただけで作業を行いました。
- 魚道の構造はシンプル
ビワマスという大型魚の産卵遡上なので、遡上力が強いものですから、魚道は斜路と方形プールだけの簡単な構造にしています。市販品ではなく、地域の鉄工所に作ってもらったものです。
- 川での作業は3時間
施工までの事前の準備は入念に行い、施工直前にも現地で手書きポスターを使って手順説明をしました。そのためか、全作業は3 時間ほどで完了しました。
- 魚に入り口を見つけさせる工夫
下流に突き出す魚道なので、うまく魚が入口を見つけられるようにする工夫が必要です。水止めに使った土のうを周囲に配置しましたが、土嚢は増水があると崩れます。写真の魚道も、次の落差工への移設時には改良し、プールから左右へのびる斜路を追加しています(図面は改良した仮設魚道のイメージ図)。
また、コンクリート河床面に接する魚道鋼板の穴は、タイトにせずにルーズな穴にしておかないと、魚道撤去時に鋼板が動かしにくくなります。また、アンカーも撤去する必要がある場合は、頭の部分にバールの先端をかけて、釘を抜くようにテコの原理で引き抜くか、そのまま打ち込んでしまいます。
- 河川管理者と連携
仮設魚道の設置については、河川管理者(堰堤に設置する場合は、堰堤の管理者も)との協議が必要です。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
ビワマスが魚道を利用して遡上することを確認できました。また、うまく入口を見つけられないビワマスが居たことから、コンクリート製魚道を設置する場合には、魚道入口を魚が見つける工夫が必要なこともわかりました。これらの情報をもとに、コンクリート製魚道の設計や設置が行われ、仮設魚道はより上流の落差工へ移設されました。なお、設置期間中の出水で破損したり滑動することはありませんでした。
【二次的効果】
ビワマス倶楽部の活動がマスコミやSNSなどで頻繁に取りあげられ、市民の目が天野川に向き、河川環境の保全活動やビワマスによって地域を元気にする取り組みが加速されています。遡上してきたビワマスを見た流域のみなさんから喜びの声が多く聞かれました。米原市では、仮設魚道設置を市役所の新人研修としても行ったそうです。全国初のことだと思います。
現地への行き方