学識者が参加していないNPO が中心となって、コンクリート護岸の都市河川・五条川に、次々と緑豊かな岸辺を造成しています。岸辺が造成されることで、以前は4 種類しかいなかった生きものが15 種類に増え、地域の子供たちも大喜び!
経緯・目的
- 生き物がいなくなれば、いつか人間もいなくなる?
「一つの生きものがいなくなると、それに連なる生きものもいなくなる」という状況を幼少のころから見てきました。例えば田んぼの中干しを始めて、オタマジャクシがいなくなり、カエルがいなくなり、それを食べていたヘビもいなくなりました。人間も他の様々な生きものに依存しています。これは下手すると人間がいなくなるような事態もあるのでは?考えたことも生きものを守る活動を始めたきっかけの一つです。
- 身近な水路で暮らす生きものたちを守る、人をつくる
五条川はコンクリート護岸で直線的な水路になっており、生きものが生活史を全うできません。生きものが繁殖できる場所がなければ、どんどん減少してしまいます。地域に普通に見られる生きものを守ることが活動の目的です。とはいえ、一度環境を改善しても、人の関心がなくなればまた元の環境に戻ってしまいます。環境改善と人づくりをセットで考えていくことを常に考えて活動が進められています。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
- 構造物にたよらず、植物の力で流されない強い岸辺を!
最初に作った岸辺は川の流心部から大きな石を集め、そこにメーカーの製品であるポット苗を植えました(川の中に構造物を入れられないため)。しかし、1週間後の大雨であっという間に流されました。次に、構造物に頼らず強度を出すために、植生ロールに植物を1年かけてびっしりと生やし、そのロールで周囲を囲った寄り洲を造成して、寄り洲にポット苗を植えることにしました。その結果、洪水にも容易に流されない安定した岸辺を作ることが出来るようになりました。
- ポット苗が流されないように!
○季節:大雨が降って増水する時期をさけた初冬などに作業を実施しています。
○植物:苗を植える際には、上部の葉を切って植えています。
- 色々な植物の種類を試して根付きやすい植物を選択
五条川は川に沿った桜並木があるため、川の中の植物にとっては日当たりが悪く、また、石の上に植えるため砂地を好む植物も使えません。これまでに、「これはいけそう」と思う15種類の苗を試しました。しかし、ほとんどの種類の苗は定着せず枯れてしまいました。現在は、最も定着の良かったカサスゲ、ヤマアゼスゲを中心に使っています。
- きっかけを作れば、後は自然まかせ
ポット苗は2種類程度しか植えませんが、造成した岸辺の下流に徐々に砂がたまり、そこに砂地を好む植物が根をおろします。また、枯草がたまることで、そこに別の植物が根をおろします。すると、それらの植物を好む生きものが集まってきます。最初から人間の思い通りには作らず、きっかけを与えて自然の変化にまかせるというスタンスで進めています。
- 一番重要なのは「人づくり」
環境活動をする上で最も重要な事だと考えているのが、自然を大切に思える「人づくり」です。どれだけ自然を再生しても、人が変わらなければ必ずまた破壊されます。昨今の環境問題はどれをとっても、人が自然や生き物に対する敬意、大切さを忘れていたからだと感じています。例えば五条川の再生においても、団体メンバーだけではなく、地域への公募、市との協働、学校との連携をし、なぜこの活動が必要かを学習してから参加してもらいます。ただの川づくりに意味は薄く、「川づくり」をとおして「人づくり」をする。このスタンスで続けています。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
NPO の活動資金は助成金と、環境学習の業務委託収入です。このため、助成金が少ない年は、作ることができる岸辺が少なくなります。
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
- 毎年岸辺が増え続け、河川内に緑が増えてきています。施工前は水域しかなかったのに対し施工後は水際域、陸域が形成されています。
- また水域内でも平瀬、早瀬しかなかった状態から、淵と淀みが形成されるため、景観の多様性は飛躍的に上昇し、それに伴い生物多様性も上昇しています。
【二次的効果】
- ある調査地点では4種類しかいなかった生きものが15種類に増えていることが確認されました。生きものが増えることで、環境学習に参加した子どもたちが大喜びしてくれるようになっています。
- 一方で課題もあります。子どもたちは環境学習以降も、自分達が植えた苗がどうなったのかや、環境学習時に見つけた五条川のシンボルであるモクズガニがいないかと川に見に来ますが、五条川には川に降りられる場所がありません。環境学習を行う際は脚立を設置して川に降りますが、普段はそれも出来ません。河川管理者にお願いしているものの、普段から子どもたちが川に入られるようにできていないのが現状の課題です。
現地への行き方