「サケに再び川に上がってほしい」という仲間の思いを形にした「天の時、地の利、人の和」がそろった事例です。日頃からの仲間との「人の和」が形あるモノづくりには必要であることを感じさせてくれました。
経緯・目的
- 橋本光三さんの農地周辺は水はけが悪かったので、農作物の生産性を上げるための排水路が必要でした。
- 1979 年、橋本光三さんがリーダーとなって役所に掛け合い、排水路が整備されました。
- 2005 年、橋本光三さんはある日、孫から「魚があがれない」と言われました。その一言が気になり落差工をよく見るようになると、サケの集団が排水路の落差工の下にたまっており、上がろうとジャンプしていました。その生命力に感動し、魚道をつくろうと思い立ちました。
- 2007 年、「駒生川に魚道をつくる会」(会長:橋本光三、メンバー9名)の発足にこぎつけました。
- 2011 年から2012 年の2ヵ年で、7基の手づくり魚道を完成させることができました。橋本さんが魚道を口にして2年たちますが、資金(北海道の補助金)の目鼻がつきました(天の時)。魚道現場に接する農地は橋本さんが貸している土地ですので、農地使用の交渉はスムーズにできました(地の利)。裏方仕事を担当する町田善康さん(美幌町博物館)という好人物とその仲間たちとの出会いはラッキーでした(人の和)。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
- 魚道の対象魚はサクラマス(サクラマスの突進速度は大きく、急流でも遡上可能)。
- 特別な技術がなくても組み立てが可能で、安価なお金でできる構造としました。
- 周辺で入手できる素材(畑の除石)を使用しました。
- 既設の鋼矢板落差工(落差0 m)のコンクリート水叩き長4.5m の中に手づくり魚道をおさめました。
- 落差0 mの水の落下エネルギーを減勢するための池を設けました。
- 減勢用の池にもぐりこむ流れの力を受け止める壁を、丸太で製作しました。
- 丸太の壁は水の勢いに耐えるようにD16の鉄筋で固定しました。
- 丸太の壁の支えとして壁の下流側にフトン型ネット篭(中詰めは畑の除石)を設置しています。
- 落下口には斜路壁(木製の架台)を設け、表面には流れが少しでも遅くなるように玉石(φ 100 ~ 200)を貼り付けた(ワイヤーのアンカー使用)。しかし、貼り付けた玉石は2年程度で流失してしまいました。
- 駒生川は比較的おとなしい川なので、全体に簡易な構造としました。河床に大きな石があるような川だと、強い構造体とする必要があります。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
- 任意団体「駒生川に魚道をつくる会」
会の構成員は市民と行政( 河川管理者交渉術・助成金情報提供)・大学( モニタリング実施部隊) に所属する人たち。北海道の助成金に応募し魚道資金を獲得。
- 設計:岩瀬晴夫氏
設計の基本は、できるだけ現地資材使用し、一日でつくることができ、手入れが容易であること。
- 施工・維持管理
「駒生川に魚道をつくる会」会員
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
- 魚道7基完成の1ヶ月後、上流にあった以前の産卵場でサクラマスの産卵床が確認できました。
- 翌年の春には、稚魚が確認できました。
【二次的効果】
- 駒生川の最下流にはアイスハーバー魚道つきの落差工があります。サクラマスのような遊泳魚は遡上できますが、遊泳力の弱い底生魚(カジカやドジョウ)は困難なので、底生魚の遡上が課題でした。
- 手づくり魚道に自信を深めた「駒生川に魚道をつくる会」は2013 年12月、アイスハーバー魚道の改良を実施しました。改良は隔壁(中央のコの字の壁)の両サイドにある越流水通しのうち、右岸側の水通しに角材と土のうを埋め込み、表面にネットを張って、底生魚がのぼりやすい緩やかな斜路勾配にしました。左岸側の水通しはいままで通り、大型のアメマス、サクラマス、サケが利用しています。
- 現在の「駒生川に魚道をつくる会」は、つくった魚道の見回りや手入れをしつつ、美幌管内にある駒生川より規模の大きな福豊川で新たなタイプの「手づくり魚道」を企画中です。
現地への行き方