河川や堰の改修、河口域の埋め立て等の結果、シロウオの産卵床であるグリ石は砂に埋もれてしまいました。学生や地域のみなさんで埋もれた石を掘り起こしてシロウオの産卵場を再生させる、人工撹乱による河川環境維持の取組です。
経緯・目的
- 春の使者しろうおピンチ
シロウオは初春に産卵のため川を上ってくるハゼの仲間で、春の使者として知られています。日本各地に残る四つ手網を始めとする古くからの漁の風景を見ると、現在でも何百年も前の人たちと同じように春の訪れを感じることができます。福岡市を流れる室見川では2月下旬から産卵のため川を遡上しはじめます。3月末から4月初旬になるとこぶし大ほどの礫の裏に産卵し、2週間ほどでふ化した稚魚は川を下っていきます。大正時代には年間10石(約1800kg)ほどもとれていたという記録のあるシロウオですが、近年の漁獲高は100 から300kg程度です。漁法が昔とさほど変わらないシロウオの減少は、漁獲圧によるものとは考えにくく、沿岸の開発、産卵場の減少による物理的な生息場の減少が主な原因と考えられました。実際に、シロウオの産卵場の流速・水深・河床材料・塩分等を調査したところ、特に上流に多くの堰を有する室見川では礫の移動が制限され、河口域は砂に覆われ産卵環境が局所化していることがわかりました。
- 意外と簡単!産卵床の再生
何百年もの間続いてきたシロウオ漁が、私たちの目の前から姿を消していくのは忍びないものです。何とか増やせないかと水産の先生に相談したところ、「あいつらは卵産めそうな場所さえあれば卵を産むよ。」との回答。試しに当時の学生さんと調査のついでにシロウオの遡上前に石を掘り起こしてみると、4月には確かにそこにたくさん産卵していました。
- マンパワーで環境にアプローチ
小規模でこんなに結果が出るのなら、もっとたくさんの人数でやったら産卵環境は劇的によくなるんじゃないだろうか? 地域の人たちで、こういう伝統が守れたら最高だよね。ということで、産卵床造成プロジェクトのアイデアが固まりました。遡上が開始する前の1月や2月の極寒の時期に、まずは学生中心でもいいからやってみようということで、地域にアプローチし始めたところ1年目から70名ほどが参加する一大イベントとなってしまいました。自然再生というと、人の存在を考えない原生的な自然システムの再生をイメージしがちですが、人間が田を耕すことで維持されている生態系もあるように、定期的に人の手を入れて環境を維持していく姿があってもいいのではないでしょうか。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
- 在来の生物にとっては大きなお世話?
砂の堆積している場所は、魚類や甲殻類の利用が少なく、汽水域に広く生息するヤマトシジミが主なベントスということは調査で経験的にわかっていました。しかし、もっと細かい視点で見ればヨコエビもゴカイもいるでしょうし、極端な話、微生物なんかはそれこそ限りなくいるわけです。自然再生といっても環境を改変するのですから、改変前の環境に生息している生きものにとっては大きなお世話です。そこで、大学の研究と合わせて現地調査から統計的な検討を行い効果的な造成場所を抽出しました。(詳しくは文献1を参考。)特定の種を対象にした保全や自然再生は、周辺に生息する生きものへの影響も考えて、造成の規模を検討する必要があります。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
毎年4月に行う産卵調査で、産卵場造成地に多くシロウオの卵塊が確認されています。総産卵数も上昇傾向にあります。
【二次的効果】
室見川流域の大部分は、福岡市都市計画マスタープランに郊外住宅地として位置づけられており、土地区画整理事業による新規宅地の創出が計画されています。持続的な産卵環境の維持には、適切な土砂輸送を確保することが不可欠です。今後は田畑の減少により役目を終えた堰の移設や統廃合も視野に流域全体での土砂管理について検討が必要です。また、産卵床の造成の結果多くの産卵が確認されましたが、孵化後は博多湾海域で成育します。浅場で育つといわれているシロウオにとって沿岸の埋め立ての進んでいる博多湾は適した環境とは言えないかもしれません。今後は海域の環境についても考えていかなければならないでしょう。
※文献1:室見川におけるシロウオの産卵環境の定量化と保全について, 伊豫岡宏樹, 山﨑惟義, 渡辺亮一, 皆川朋子, 浜田晃規,第41回土木学会環境システム研究論文発表会講演集,pp.391-395,2013.
現地への行き方