琵琶湖に流入する急流河川となる喜撰川では、落差工によりアユをはじめとする魚類の遡上が困難な状態になっていました。財政難のため河川管理者による対策が見込めない中、市民が立ち上がり、間伐材を用いた木箱を階段状に並べた手作り魚道を設置。試行錯誤の末、数千尾のアユが遡上するまでに至っています。
経緯・目的
- 魚がのぼれる川づくり「もう待ってはいられない!自ら実行すべし!」
びわ湖自然環境ネットワーク(FLB)は滋賀県大津市(旧志賀町)を中心に活動する市民団体で、琵琶湖を中心とする湖国(滋賀県)のすばらしい自然と環境を守るための活動を長年にわたり行っています。当時(1990 年代〜2000 年代前半)、国・県でも「多自然(型)川づくり」や「魚のゆりかご水田」などの河川や水路の縦断連続性を回復させる事業が進められていました。しかし、バブル崩壊後の財源不足は既に始まっており、これらの事業は少しずつしか進んでいませんでした。そこでFLB は活動の一環として、琵琶湖に流入する川の連続性を回復するための「魚ののぼれる川づくり事業」に自ら乗り出しました。
- とにかく調べる! 「とにかく観察会を6回行いました」(メーリングリストの報告から)
活動拠点からほど近い喜撰川を中心に、魚類の専門家と一緒に河口から源流までをくまなく歩き、落差工の前後で魚類の生息調査を行いました。その結果、落差工が設置される以前と比べて、確認される種類数が著しく減少していること、落差工より上流ではさらに確認される種類が少ないことが分かりました。さらに、複数ある落差工に取り付けられた魚道が十分に機能していないことなども分かりました。
- できるところから!
魚道の設置を河川管理者に相談したところ、「財政的理由により優先的に魚道を設置することが難しい」との回答が続きました。それでも、「自分たち市民で何ができるだろう」と議論する中で、間伐材などを使って魚道を造ろうという話になり、プロジェクトが動き始めました。
活動の流れ
工法の説明・工夫した点
- 間伐材を活用した「木製箱型魚道」
2004 年4月以降の魚の調査の結果、落差工の上下流で、魚類種数に大きな差があることがわかりました。そこで、河川縦断方向の連続性の確保のために、魚道を試験的に設置することにしました。設置する魚道は「木製箱型」です。7つの木箱を繋ぎあわせたこの魚道には、自然や安全へのさまざまな工夫がなされています。
・資源の有効活用のために、上流域の間伐材(スギ・ヒノキ)を使用。
・大型重機を使えない市民工事なので、設置・撤去しやすい材料・構造で製作。ひとつひとつの箱は軽トラックでも十分に運べる大きさです。
・木製であれば、出水などで万一壊れて流されてしまった場合にも、下流の構造物等を損傷することもありません。部材の大きさにも配慮し、橋脚にひっかかるような大きさのものは避けました。上流域の間伐材ですから、流されて見つからなかった場合にもやがて本来の自然に還ります。
- 試作品を設置する
はじめに、木製魚道の試作品を2005年5月に設置しました。河川管理者(滋賀県)から1ヶ月間の占用許可を得て、魚道の効果を検証しようと17日間にわたり試験的に設置しました。短期間であれば占用許可も得やすいこともありますが、設置を恒久的に行うのではなく一時的・試験的に行うことで、魚道の欠点を改善することが狙いです。このときの試験的な設置によって、いくつもの課題が見つかりました。
課題①「木箱の強度」
間伐材で作った魚道は水漏れが激しく、初回設置時にはシートで水漏れを防ぎました。また、増水した際に、水圧によって木箱の底が抜けてしまいました。
課題②「魚がのぼらない!!」
試験期間中に最も期待したアユの遡上は見られませんでした。専門家にアドバイスを求め、以下のような形状の改良を施しました(2006年11月)。
改良①
空中をジャンプして遡上しなくても済むように、箱と箱の間に斜板を貼り滑り台のようにしました。
改良②
試作品では、最下段の吐口を段差に沿わせるように、流下方向に対して直角方向に設置していました。改良型では、最下段の吐口を流下方向に対して真っ直ぐにしました。
- 改良型魚道の設置(2006年3月)
2006 年3月には2度目の設置。その後、2006 年11月には、試験設置の結果を踏まえて魚道の形状に改良を施しました(滑り台設置と魚道の直線化)。河川法に基づく河川占用許可については、通年で許可を取得し、毎年更新するようにしています。本格的な設置といっても一時的な占用であり、河川管理者によって恒久的な魚道が設置されるまでのいわば暫定的な施設という位置づけです。
そして、2007 年8月には数千尾のアユが遡上しているとの目撃情報を得て、現場に向かうと若アユが次々と木製魚道をのぼる姿を確認することができました。紆余曲折、試行錯誤の末、ついに市民公共工事が大きな実績を挙げることができたのです。
使用材料・工具
実施体制・スキーム
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
2007 年以降、現在(2014 年)に至るまで毎年数多くのアユの遡上が確認されています。これまで計画高水位に近づくような出水を何度か経験しましたが、木製でも驚くべき耐久性を見せ比較的軽微な損傷で済んでいます。最も大きな損傷としては、2010 年7月の出水で最下段のふた箱が流されました。ただし、渇水期には土のうで流れを魚道に導いたり、水漏れの補修、滑り台用斜板の張替えなど、年間を通じた維持修繕が必要で、これが相当な労力となります。この場所での魚道の効果は十分に実証されていることから、河川管理者による恒久的な魚道設置が望まれます。
【二次的効果】
この取り組みを進めるにあたって、びわ湖自然環境ネットワークは、河川管理者である滋賀県から河川法に基づく許可(24、26、27条申請)を取り、毎年更新しています。①改正河川法に追加された新しい目的である「河川環境の保全と整備」に合致しつつ、治水・利水上の支障がないこと、また、②漁業者や周辺住民の同意を得られていること、③必要に応じていつでも原状回復できること、などの条件を満たせば河川法上の許可を取得できることを、この事例は示してくれています。
現地への行き方