両岸はコンクリート、河床は土丹といわれる硬質粘土層が露出する単調な黒須田川。そんな川に、大雨の濁水に含まれる僅かな土砂をトラップすることで植物を生やし、多様な流れを創出しています。
経緯・目的
- 2006 年、河川管理者(横浜市)が黒須田川の河川環境の改善を検討していると知り、何が可能かを検討しました。その結果、川の中に植物が生えることができる基盤をつくることを目標にしました。
- 黒須田川の上流域は住宅地であり、雨が降って増水しても砂くらいしか流れてこない川でした。少ない流量でも簡単に流れてしまう砂を河床に保ち、植物を生やすためには、砂をトラップする工夫が必要です。また、それは、雨が降って川が増水しても流されないものである必要があります。このような目的を満足する工法として、バーブ工法を試すことにしました。
- 当時、まだバーブ工法の施工実績はほとんどなかったので、黒須田川においてバーブ工を試験施工して、その効果を実証したいと横浜市に提案して、試験施工が可能となりました。
- 2007 年8月、黒須田川上流で試験施工を行いました。
- 2009 年1月、試験施工の結果が良好と認められ、下流区間にもバーブ工が施工されました。
工法の説明・工夫した点
- バーブ工法は、上流側に角度をつけた低い水制に見えますが、その機能は帯工に近いもので、流れてくる土砂を貯めて寄り州を形成することを意図しています。片側1基だけでも用いることができ、この事例では2基を向かい合わせにして、ハの字に設置しています。
- バーブ工は、土砂を堆積させ、寄州や中州を形成することによって、河床の安定や瀬淵・蛇行といった川のダイナミックな状態を創出するのが目的の工法です。黒須田川は、河床に軟岩に近い硬さの土丹層が露出していたので、土砂を貯めて寄州を形成することを目的に使用しました。
- バーブ工を土丹層表面に置いただけでは、増水した際に流れから受ける力で簡単に移動してしまうおそれがありました。移動を抑制するために、鉄筋(D10 × 300)を土丹層にハンマーで打込み、簡易なアンカーとしました。土丹層程度の硬さであれば、鉄筋棒は簡単に打ち込めます。ただし、鉄筋棒アンカー力は小さいので、大きな増水には不十分です。小さな自然再生用の簡易で扱いやすいアンカーを考案中です。
- バーブ工の表面のネットは耐久性に配慮した特注品で、ステンレス線(φ3 mm)をポリエチレンネットに4本編みこんだ特殊ネット(ポリステンネット)です。ネットの目合いは45mm ×45mm です。
- ネットの中詰め材は、単粒度砕石40mm を使用しました。
- 全国で「多自然(型)川づくり」の啓蒙を行っている吉村伸一さんが、横浜市との交渉を担当しています。
- バーブ工にはできるだけ現地の材料を使用するようにしていますが、現地の河床礫を包むネットの開発、現地の玉石を連結したものの耐久性など不明な点を実証しようと、道具仲間が集まりました。
- 試験施工はバーブ工の資材を模索している道具仲間6 人でバーブ4 基を2 日間で作りました。
- 黒須田川でバーブ工に使用したネットと玉石連結は、道具仲間の所属する会社から提供してもらいました。
現場のキーパーソン
効果
【一次的効果】
- 目標とした植生基盤づくりは、うまくいった個所とそうでない箇所があります。比較的上流の区間は土砂が堆積して植物が生育していますが、下流の区間ではまだバーブ工に十分に土砂が堆積していない状況です。
- バーブ工を施工するのと同時に土砂を搬入して植生基盤を作ることも考えられますが、増水した際に搬入した土砂がほとんど流されてしまうと考えられます。
- 本事例のように流れてくる土砂が少ない河川では、土砂の堆積と植物の定着を辛抱強く待つことも重要と考えられます。
【二次的効果】
- バーブ工の設置によって流れが滞留するようになり、数十センチの水深が維持されるようになりました。黒須田川の水面は決して広くありませんが、バーブ工によって水深が増加した区間にカモの仲間が羽休めに訪れています。また、魚影も多くみられるようになりました。
- 黒須田川の縦断勾配は1/400 程度と比較的緩い川ですが、雨が降ると住宅地の排水が短時間に川に集中し、川が直線的で平滑なために流速が速く、川の中にある物体には大きな力が作用します。このため、バーブ工の本施工ではバーブ工が流失しにくいように土丹層を掘り、掘った穴にバーブ工を落とし込んでいます。事前に行った計算では、この処置(落とし込み)と鉄筋アンカーの組み合わせによって、大きな洪水でも流失しないことになっていますが、上下流の土丹層自体が侵食を受けて流失してしまうとアンカーは機能しなくなります。以上のことから、今後も観察を要すると考えられます。
現地への行き方